《MUMEI》

「朝食を取りながらで結構ですので、本日の予定を聞いてください」

「え〜? そんな消化に悪い。車ん中で聞くからいいだろう?」

「車の中ではより詳細なことをお伝えします。今から言うのは今日の予定の大雑把なことだけです」

「ぶ〜」

文句を言うのはいつものこと。

俺は気にせず、手帳に書き込んだ予定を読み上げる。

20時頃の予定を言っている時に、彼の顔色が悪いことに気付いた。

「どうしました?」

「『どうしました?』じゃないだろ! 何だその殺人スケジュール!」

「死にませんよ。代わりに明日は午前中、半休を取ってあるんですから」

あっさり言い返し、空になった皿を片付け始めた。

「ううっ! アメとムチを使い分けやがって」

「それが秘書というものです」

皿の代わりにコーヒーカップを置く。

「5分で飲み終えてくださいね。俺は片付けと用意をしときますから」

「へーい」

ダラダラしながらも、全ての用事が済む頃には、きちんとスーツを着て準備万端なんだから、やっぱり彼には社長という地位は相応しいんだろう。

彼の荷物を持ち、車に乗り込んだ。

彼は後部座席に乗ると、ノートパソコンを立ち上げる。

「あ〜…ウチの株、上がったな」

「上がるように日々頑張っていますからね」

「誰が?」

「もちろん、社員達がですよ」

「ひでっ!」

「36にもなって、そのリアクションはやめてください。部下に示しがつきません」

「きっついなー。ウチの秘書は」

「上がだらしないと、下が引き締まるんですよ」

すかさず言い返しながらも、安全運転で会社へ向かう。

高級ビルが立ち並ぶ中、一際目立つビルがある。

そこが彼と俺の働く会社。

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