《MUMEI》

車が入ると、幹部達が玄関で待っているのが見えた。

俺は先に降りて、彼のドアを開け、カバンを渡す。

「いよっ、おはようさん」

「おはようございます、社長」

社員達が次々と頭を下げ、挨拶をする中、俺は部下の1人に車のキーを渡した。

駐車場へはいつもの者に入れてもらう。

そして彼の後を歩きながらも、周囲に気を回す。

会社の中で何か不穏な動きがないか、感じ取る為に。

 チリッ…

わずかに肌が反応した。

彼の顔を見ると、俺を見て笑った。

彼も感じ取ったのだろう。

会社に流れる不穏な空気を。

ビルの最上階に、社長室がある。

社長室で2人っきりになるなり、彼は俺を見た。

「ずいぶん、怪しいのがいるんだな」

「検討はついていますので、ご安心を」

「まったく…。お前はよくやってくれるよ」

彼はカバンをソファに置き、社長用のイスに座った。

「で? いつ頃終わりそうなんだ?」

「今日中には必ず。なのであなたにはちゃんとスケジュールをこなしてもらわないと、困ります」

「なるほど。どうりで過密スケジュールなワケだ」

彼は肩を竦めると、俺の目を真っ直ぐに見て笑った。

「でもお前はちゃんとオレを守ってくれるんだろう?」

「当然です。俺以外に、誰があなたを全身全霊全力で守れると?」

そう言いつつ、メガネの位置を指で直した。

「そりゃ頼もしい」

彼の眼に宿る光は、決して良い輝きではない。

俺の言っている意味を、よく理解している眼だ。

「あなたのことは、俺が必ず守ります。誰にも傷付けさせませんし、殺されもしません」

「…頼りにしているぜ?」

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