《MUMEI》

「大丈夫だって。十分広いから。お前も来いよ」

あんまり嬉しそうに手招きをするので…。

俺は枕を掴み、ドアに投げつけた。

「おっと」

ぼすんっ!

しかしドアはすぐに閉められ、枕はドアにぶつかり、落ちた。

「馬鹿なこと言ってないで、早くあがってくださいよ!」

「はいはい」

シャワーの音が聞こえるまで、俺はじっと身を固くして動かなかった。

「まったく! 困った人だな」

1人になる時間が、俺には必要なのに!

ケータイを取り出し、メールをチェックする。

…よし。とりあえずこのままで良さそうだ。

手帳を開きながら、電話をする。

夜遅くとも、連絡することは山のようにある。

そうしているうちに、彼がおフロからあがった。

「相変わらず仕事熱心だなぁ」

「熱心でなければ、会社は潰れてしまいますから」

俺は着替えを持って、立ち上がった。

「連絡がきても、受けなくても結構ですから」

「あいよ」

冷蔵庫からビールを取り出しながら、彼は手を振った。

熱いシャワーを浴びると、少し疲れがとれる。

「ふぅ…」

俺は彼の運転手だから、酒を飲むわけにもいかなかった。

でもパーティーの雰囲気に、少し酔ったかもしれない。

頭を軽く振り、この後の大仕事を思い浮かべる。

…1年前ぐらい前から、ウチのデザインに酷似した作品が世に流れ始めた。

ただ似ているだけじゃない。

品の悪いイミテーションで、使われている石もガラスときた。

その調査に、半年もかかってしまった。

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