《MUMEI》
音色のキス
わたしにとって、日曜の午後は特別な日。

通っているピアノ教室に行く日だからだ。

先に練習室に通されたので、軽く指を動かす為に、少しピアノを弾く。

ここには6歳の頃から通い始めて、もう10年目になる。

教えてくれる先生も、変わった。

3年前から、前に教えてくれた先生の息子さんになった。

…その時から、わたしの演奏は変わってしまった。

物凄く、ダメな方向に…(涙)。

「こんにちは」

突然、扉が開き、息子さん…ではなく、先生が入ってきた。

「はっはい! こんにちは、先生」

背筋を伸ばし、立ち上がった。

「座って。課題はやってきた?」

「はい! もちろん!」

この1週間、毎日ぎっちり練習してきた。

練習を聞いてくれる両親も、上手になったと褒めてくれたぐらいだ。

音楽の先生にも聞いてもらって、お墨付きをもらった。

今日ならば!

「じゃあ、弾いてみて」

「はい!」

わたしはイスに座って、深呼吸した。

そして…。




…あり得ないほどの、異音曲を弾いてしまった。

今日もまた…やってしまった。

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