《MUMEI》

やがて弾き終わり、わたしはため息をついた。

「ふぅ…」

先生の前でなければ、こういう演奏ができる。

なのに…。

パチパチパチッ

「えっ」

拍手の音に驚いて顔を上げると、扉の所に優しい表情の先生がいた。

「上手くなったものだな」

「やだっ…! 聞いてたんですか?」

「ここはピアノ教室だぞ? 演奏を聴くのが、オレの仕事だ」

「そっそれはそうですけど…」

でも何も、黙って聞いていることはないのに…。

「ところで…話があるんだが、良いか?」

「はっはい!」

コンクールの話だろうか?

「オレはお前の指導を辞めようと思ってる」

「…えっ?」

目の前が、一瞬にして真っ暗になった。

「お前、オレの前じゃ緊張して、ろくな演奏できないだろう?」

「うっ!」

きっ気付かれていたか…。

「だから親父にまた、指導してもらうと良い。親父の前なら、ちゃんと演奏できるだろう?」

「そっそれは…」

…そうだけど。

「だから親父に学ぶと良い。今まで辛い思いさせて、悪かったな」

そう言って先生は優しく微笑んで、わたしの頭を撫でてくれた。

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