《MUMEI》

でも!

「まっ待ってください!」

わたしは立ち上がり、真っ直ぐに先生の目を見た。

「演奏なら、先生の前でもちゃんとできます! だから指導続けてください!」

「いや、でも…」

「大丈夫です! 今、弾いてみます!」

わたしはイスに座って、また鍵盤に触れる。

あっ…指が震える。

ダメだ! こんなんじゃ、先生がっ…!

ゆっくりと演奏をはじめる。

でも震える指から生まれるのは、とても醜い音。

こんな演奏…先生だって、いつまでも聞いていたくないだろうな。

わたしは演奏を止めた。

「すっすみません、先生。やっぱりわたし、ダメみたいです」

震える手を握り締め、俯いた。

涙が浮いている目は見られたくない。

せめて笑っている形の口元だけでいい。

「今までゴメンなさい。ヒドイ演奏聞かせてしまって…。でも先生は良い先生でしたから」

バタバタと帰り支度をはじめる。

「それじゃ、これからも頑張ってください!」

頭を下げて、扉に向かった。

「…待ちなさい!」

でも腕を捕まれ、そのまま後ろから抱き締められた。

「せっ先生…?」

「…言い方が悪かった」

「えっ?」

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