《MUMEI》 「―好きだ」 「……へっ?」 自分でも驚くほどの、気の抜けた声が出た。 「好きなんだ、お前が。だけどオレじゃお前のピアノの才能を潰しかねないから、身を引くことにしたんだ。でもあくまでそれは、ピアノの指導者としての立場だけで…」 わたしは顔だけ振り返る。 先生の真っ赤な顔が、間近に迫る。 「男としては、引くつもりは一切無いからな」 ―重なる唇。 先生のあたたかさが、全身に満ちていく。 「ふっ…」 思わず泣き出してしまったけれど、先生が顔中にキスの雨を降らせてくれる。 ぎゅうっと先生に抱きついた。 落ち着いた頃、先生に手を引かれて、再びイスに座った。 「ホントはお前が高校卒業するまで、ガマンしているつもりだったんだ」 「そう…なんですか?」 「ああ、お前がオレのことを好きなのは分かっていたから、気長に待つつもりだったんだ。お前が大人になるまで」 「………はい?」 「まさか、自覚無かったのか?」 「いっいえ、ありましたけど…」 バレてたとは思いませんでした…。 「あれだけ緊張しまくるなんて、好きか苦手かのどっちかだろう?」 「確かに…」 「まっ、音楽の方も気長に待つとするさ」 先生は笑って、肩を竦めた。 「…緊張しないように、精進します。もちろん、恋愛の方も!」 わたしも笑顔で答えた。 だけど…まだ体が緊張している。 本当に延長戦になりそうだ。 前へ |
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