《MUMEI》

 身体に走る痛みを押さえ付けて立ち上がろうとするライナスの前まで滑って来たそれは、彼が戦教士隊の隊長となってからの職務を共にした、東方の刀剣を模して鍛えられた、この国では珍しい片刃の曲刀だった。

「立つがいい。
 ついでにどの程度の腕前か確かめてやろう」

 剣を手に立ち上がるライナスを待って、ブラッドは右手をコートの内側へ突っ込み、そこから銀色に光る、いかにも破壊力のみを追究した凶悪な形状の銃を抜き出す。

 呼応するようにライナスも鞘をベルトに留めると、右半身をブラッドに向け、前後に足を開くと腰を落とし、左手で鞘を、右手で柄を持ち、居合の構えを取る。

 いかにもこの状況を楽しんでいるかのように薄笑いを浮かべるブラッドと、可能な限り感情を押し殺し能面のような表情を見せるライナス。

 無言で対峙する二人の周囲の空間が渦を巻き、夜気をはらんで一気に冷える。

 一秒が一分に感じる程の濃厚な時間の中、先に仕掛けたのはライナスだった。

 地を蹴り一気に間合いを殺すとブラッドの隙だらけの横腹目掛け居合抜きの一閃を見舞う。

 ブラッドは後方へ跳躍し、その一撃を難無く避すと、空中で体勢を変えてライナスに銃口を突き付けトリガーを引く。


 ガゥンッッ!!


 鼓膜を打ち据える咆哮と共に銃口が火を吐き、刹那で音速の壁を突き破った鉛玉が獲物に襲い掛かった。

 自分の一撃が避される事を察知していたライナスは、ブラッドの動きを目で追い、彼が自分に向ける銃口の向きから軌道と着弾位置を予測。相手に向かって駆け、右頬すれすれを紙一重で通過させると、地面に降り立ったブラッドに向かって大上段に振り上げた剣を降り下ろす。


 ガキッ――


 脳天目掛け迫り来る刃の腹を、ブラッドは手にした銃のグリップの底で叩き付けて軌道を反らした。

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