《MUMEI》
壊れる音
.


―――嫌だった。



もう、思い出したくなかった。


3年前の『あの日』のことを。



でも、その記憶は、

こんな風に時々、気紛れに、わたしの元へやって来ては、


『あの日』のわたしに引き戻そうとするんだ。



だから、わたしは変わった。



化粧もおしゃれもしないし、

恋愛もしない。



たった独りでも、

自由気儘に生きていこうと、



『彼』と別れてからこの3年、


ずっと、それだけを考えて、ここまで歩んで来たんだ…。



******



待ち合わせ場所に着いたのは、約束の時間、ぴったりだった。


新宿駅東口の改札を出て、わたしはぐるりと周りを見回した。


たくさんの人々が行き交う構内で、隆弘の姿を見つけられなかった。


わたしは鞄から携帯を取り出した。誰からも連絡が無かった。隆弘は、まだ到着していないのだろうか。

通行人の邪魔にならないよう、壁際に寄り、それから携帯のメールボックスを開いて、隆弘宛てに、先に到着したことを連絡しようとメールを打ち始めた、


その時―――。


「…皐月さん?」


突然、あの伸びやかな声が聞こえてきた。


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