《MUMEI》

 そして空いた左手をコートの内側へ突っ込み、もう一挺、今手にしている銀の銃よりも銃身の長い無骨に黒光りする銃を引き抜こうとするが、それを視覚に捉らえた瞬間、ライナスの足が彼の左腕を踏み付け銃身がコートから抜け切るのを妨害すると、その足を軸にして背後へ大きく跳んだ。

「まるで子犬同士のじゃれ合いじゃないか」

 二人の戦いを観戦するため下まで降りて来たレヴィルが、アパルトメントの入口の扉に背を預けながら、さもつまらなそうに中指で眼鏡の位置を正し、冷淡とした眼差しで評価を下す。

「全く、あの馬鹿はくだらない事にばかりに時間を費やしたがるんだから……」

 その視線の先にはサングラスの奥の金と銀の瞳を爛々と輝かせ、この一瞬一瞬を楽しむブラッドの姿。

 ライナスが気勢を発し間合いを詰めると同時に手にした剣を引き絞り、余裕すら見せるブラッドの喉元を狙い突きを入れるが、彼は円を描くようなステップを用い、半身をずらすと難無くその一撃を避してしまう。

 しかしそれは承知の上。ライナスはすぐさま剣を引き次撃を胴ヘ、その次を肩、次を腕、首、胸と幾つものフェイントを織り交ぜ、突き、斬り、薙ぎ払いと幾太刀も浴びせるのだが、ブラッドはまるで踊りを踊るかのような軽やかなステップを用い、悉く紙一重で避しきると、最後に大きく後ろへ一歩跳び間合いを開ける。

「素晴らしい身体能力じゃないか」

「全然褒められてるように聞こえないな……」

 浅く呼吸を乱してライナス。

「むしろ手も足も出ない俺に対しての皮肉か?それは」

「そんなに自分を卑下する必要はないさ。剣の腕も近年稀に見る才能だ。百年以上生きた俺が保証しよう」

「そんな保証を貰ったって嬉しくも何ともない……」

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