《MUMEI》

 愉しそうに嗤い、左手に収まった武骨な黒い銃の安全装置を解除しながらそう評価するブラッド。それに対しライナスは右頬にうっすらと滲んだ血を手の甲で拭い、乱れた息を整えながら目の前に立つ敵の次の挙動を見逃さないよう睨み付ける。

「しかし悲しいかな、所詮それは人間レベルでの話……」

 見た感じブラッドは完全に隙だらけだが、それが自分の攻撃を誘う罠である事を初激からの闘いで理解したライナスは、次の行動に移るのに躊躇いを覚える。それだけの実力差をつい今しがたまざまざと見せ付けられたばかりだ。

「その程度じゃあ俺に傷一つ付ける事なんて夢のまた夢」

 言い終えると今度はブラッドが先に仕掛けた。両手に二挺の銃を持ったまま間合いを殺すように一気にライナスへ駆け出す。

 無作為に突っ込んで来るように見える行動にライナスは十分警戒しつつ、間合いに入って来るのなら一太刀浴びせかけようと、刀を鞘に納め居合いの構えで迎撃に備えたその直後――。

 剣の間合いぎりぎりでブラッドの姿が掻き消える。

「――っ!?」

 いや。実際に掻き消えた訳ではなく、掻き消えたかのように錯覚する程のスピードで進行方向を直角に変え、背後に回り込もうとするブラッドの姿を、彼の目はかろうじて捉えたが、身体はそれに対応する事が出来ない。

「どこを向いてるんだ。こっちだこっち」

 背後を取られたライナスが、相打ち覚悟で身体を捩り、鞘の中で刀身を滑らして横薙ぎに一閃見舞うが、ブラッドがそれよりも早く銃のグリップの底で顔面を横殴りに打ち据える。その一撃によりライナスの斬撃は失敗に終わり、左頬に衝撃を受け、錐揉み状態で後ろへ吹き飛んだ。

 自分から離れていくライナスへ追い撃ちを掛けるべく、銃口を標的に向け狙いを定める。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫