《MUMEI》

「何だい?どんな事でもやると言っておいて、『やっぱり出来ません』とか言い出すんじゃないだろうね?」

「いえっ、そんな事は無いです……」

 しまった――。やっぱり罠だった!

 再起動した頭で気付いた時にはすでに遅かった。

「そいつは良かった」

 頭を抱えたい気分の僕とは対照的に、櫻井さんはとても喜んでいる。

「あの……ひとつ質問が有るんですが、ここで働くって言う事は、妖怪だか幽霊だかと戦わなくちゃいけないって事ですよね?」

「そりゃそうだ。ここはそういう場所なんだからね」

「けど、僕にはそういう類いのモノは全然視えませんよ」

「それなら大丈夫だ。霊力の無い人間にも妖怪変化を感知出来るようにする道具類なら幾つか有る。

 問題は君の持つ巨大な霊力を、君自信がコントロール出来るかどうかだな」

「え……いや、でも…………」

「つべこべ言わずにいい加減腹をくくろうじゃないか、高橋君」

 未だに煮え切らない態度を取る僕に、ついに櫻井さんは痺れを切らしたようだった。

「それじゃあ、これが最後だ。
 これで君が決めた方を尊重しよう。

 入局して立派な清掃人になるか、断わって暴走の恐怖に怯える日々を過ごすか。

 さぁ、どっちを選ぶ?」

 何だろう。このどっちを選んでも死亡フラグが立っていそうな選択肢は?

「他の選択肢は無いんですか?」

「ない!
 さぁ、選びたまえ。あと十数えるまでに決められないのなら、勝手に決めさせてもらうからね。

 じゅ〜〜ぅ、きゅ〜〜ぅ、はぁ〜〜ちぃ…………」

「わっ、まっ、待って、待って下さいっ!解りました!入局します。入局させて下さい!!」

「そうか。入局するか!いやぁ、君ならそう言ってくれると信じていたよ!
 それじゃあ、契約にその他もろもろの事務手続きを行わないとな。付いてきなさい」

 なんかもう、言いたい事は色々あったけど、この場はグッと言葉を飲み込む。今、口に出すと自分でもワケの解らない愚痴とも文句ともつかない事を延々と垂れ流し続けそうだったから。


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