《MUMEI》 15.15. 真理は嬉しそうに 丈 が3ヶ月前に会社をリストラされていた事を徹に電話していた。 すぐにでも離婚ができて、今週中には徹が借りたマンションへ引っ越せそうだと話した。 その話を徹は楽しそうに聞いていた。 徹「引っ越し業者を向かわせるのは、いつがイイ?」 真理「いつでもイイわよ。でも早い方がイイわ。」 徹「いつでも大丈夫か?だってリストラされてるんだろ?部屋に旦那が居る時に引っ越し業者が来るのは、さすがにマズくないか?」 真理「そうね。あんな疫病神が居る時に引っ越ししたら、これからの運まで下がりそうだしね。」 徹「アハハハ。疫病神は言い過ぎだろ。でも何でリストラされてたんだ?そんなに無能な男じゃないんだろ?」 真理「やめてよ!そんな話。アイツの話なんかしないで!イライラするわ。」 徹「分かった、分かった。機嫌なおしと離婚の前祝いで今から食事は、どうだ?出れるか?」 真理「うん。行く行く。」 徹「それじゃあ、今から、すぐに向かう。」 真理「うん。分かったわ。」 丈 と 香 はレストラン・アンブレラに居た。 コーヒーを飲みながら暫く沈黙が続いていたが 丈 が離婚になる事を 香 に話し始めた。 丈 の落ち込みは、かなり酷いものだった。 香 は複雑な思いで聞いていた。 香「とにかく元気を出して。お腹は空いてない?私、お腹すいちゃった。」 本当は食べてきたばかりだったが少し話を紛らわせて、この暗い雰囲気を変えたかった。 丈 に元気を出して欲しかった。 長年、連れ添った相手と別れる事は物凄く辛い事だ。 ただ 今は少しでも 丈 を支えてあげたかった。 丈 の事が好きだから、出来るだけ早く立ち直って欲しかった。 香 は「オススメ」を2つ注文した。 アンブレラ、オススメのオムライスが運ばれて来た。 香 はすぐに食べ始めた。 しかし 丈 の様子がおかしい… 香 は、急いで席を立つとマスターに「救急車を呼んで欲しい」とお願いした。 マスターは事情を察知すると、すぐ救急車を要請した。 香 は席に戻り 丈 に声を掛けた。 丈 は「大丈夫、大丈夫」と無理をしながら「アンブレラに迷惑が掛かるから」と言って席を立った。 香 も続いて席を立った。 丈 は2〜3歩、歩いた所で止まった。 香 が支えようとした時 丈 は前へ倒れ込んだ。 香 は 必死で 丈 を掴んで抱き抱えた。 その時、救急隊が入って来た。 丈 をすぐに救急車に乗せると病院に向かった。 病院に着くとすぐに処置室に入った。 香 は待合室で祈るような思いで待っていた。 暫く待っていると看護師が呼びに来た。 看護師「安野さんの奥さん。」 香 は返事をしなかったた。 看護師は 香 の前まで来て 看護師「安野さんの奥さん。」 再び声をかけた。 その時、初めて自分の事だと気づいた。 看護師は勘違いしていたのだ。 香「は、はい。」 看護師「奥さん。先生から、お話しがありますので、こちらの方に来て下さい。」 香「は、はい。」 香 は看護師の後をついて行った。 部屋に入ると先生が座っていた。 先生「奥さん。どうぞ、こちらに座って下さい。」 先生まで勘違いしていた。 先生「奥さん。残念ですが、旦那さんは癌です。それも悪性の末期癌です。」 香 は一瞬にして凍りついた。 香「が、癌…」 先生「はい。余命は後、1年ほどでしょう」 つづく 前へ |次へ |
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