《MUMEI》

『アリス姉さま、今日は何をして遊ぶの?』

幼い頃のアヤヒが、今は行方不明の姉、アリスに問う。

「そうね…。んー…。アヤヒは、何がしたい?」

顎に手を添えながら、首をかしげるアリス。ひとつひとつのしぐさが、とても美しい。

『えーとね、アヤヒはねぇ…。…かくれんぼがしたい!』
「なら、紅くんと蒼くんも呼ぼうか!」
『うん!私、紅羽たちのこと、呼びに行ってくる!』

――…

アヤヒが紅羽たちを呼びに行っている時、アリスは一人で本を読んでいた。

”不思議の国のアリス”

アリスと同じ名の主人公が、不思議の世界へ迷い込む、ファンタジーストーリーだ。
まあ、結局のこと、夢オチで終わるのだが…。

アリスは、その話が大好きであった。

「んー!…やっぱ、おもしろい!」

ふいに、一つの影が現れた。

「お嬢さん」
「え?」

影が、アリスに声をかける。
アリスが、振り向くとそこには―…

「え?…う、うさぎ…??」

アリスに声をかけた影は、洋服を着、大きなリボンを首に巻いた、…うさぎ、だったのだ。

「う…う…うさぎが、しゃべってる……!」
「わたしは、ノアと申します。皇帝陛下の命令で、アリス様を迎えに参りました」

え…?
皇帝?
なに、それ……?

アリスは戸惑うばかりだった。

「さあ、わたしと参りましょう」

ぐい、とアリスの手を引っ張る、ノア。
ウサギのくせに、ものすごい力だ。

「な…、離して!」
「それはできません。皇帝陛下の命令ですから」
「ど、どこに連れていくのよ!」

怒鳴るアリス。
その様子を見てノアはポカンとなる。

「?何を仰ってるのですか?…貴女が、望む世界ですよ。ずっと、ずーっと行きたがっている世界…」
「??」
「…不思議の国(アンダーワールド)ですよ」

あ、んだーわーるど?

なれない言葉を耳にして、疑問がいくつも浮かび上がってくる。

「どこにあるの、そんな国…」
「この世界には存在しません。ほら、あそこに穴があるでしょう?」

あ。とアリスは思う。
向こうの木の下に、ぽっかりと黒い穴があいている。

「あそこに飛び込んで行くんですよ」

な…!!
そんな、訳のわからないところに、飛び込んでいけるわけないじゃない!

「嫌よ!とにかく、私は行かないわ!帰って!…あ、穴も元通りしておいてよね!」

立ち上がり、家の中へと向かうアリス。

「……実力行使は、苦手なのですがね…」

――…

『姉さま、紅羽たち、留守だった…』

ぶーたれた顔をして、アヤヒが門を開ける。

『………え?』

庭にウサギがいる。
しかも、二本立ちしている。
その視線の先には…

『なんであのうさぎ、姉さまのことを見ているの…?』

姉さまに懐いたのかしら。

そう思った時だった。

ウサギが、自分の首に巻いていたリボンを外す。

『へんしん…した…』

鮮やかな白髪の青年に、変わったのだった。

その青年はアリスに向かって走り出すと、それに気づき後ろを向いたアリスの鳩尾を、殴った。

「…っう………」

気を失うアリスを抱きかかえ、木の下にあいていた穴の中に飛び込んでいく。
青年が飛び込むと、穴は、消えてしまった。

そんな一瞬の出来事を、アヤヒは、ただただ見ていることしかできなかった。

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