《MUMEI》
逃げよう!
.






「おい…」

「ん…」

「おいってば!」


「‥リョ…ウ?あれ‥私‥」

「はぁ‥焦った。死んでんのかと思ったよ。」

コンクリートに倒れている加奈子を見下ろしながら、リョウは胸を撫で下ろす。


余りに現実離れした出来事を上手く理解出来ず、そのショックで加奈子は気絶していたのだ。


まだぼやける視界。

しかし確実に目に写し出される漆黒の翼。
それがこの出来事が幻でない事を示していた。


“目が覚めたら夢でした”などという都合のいいオチであればと、心の中で強く思っていたのに…


「ごめんな、こんな面倒な事に巻き込んじまって…」
「リョウが謝る必要なんかないよ。」


パンパンと服に着いた埃を払い落とすと、加奈子は部屋を見回した。

「あれ?有馬達は…?」

「さっきの人‥持ってどっか行った…。」


じゃあ今、私達二人だけ‥って事は今がチャンス!!

「俺、また…」

「逃げよ!!」

「え…?」

加奈子は修二が投げっぱなしにしていた鉄パイプを檻目がけて投げ付けた。

「ほら、今電気流れてないし!逃げるんだったら今だよ!?」


幸いにも鍵は南京鍵一つのみ。
これくらいだったら何とかなるかも知れない…


「逃げよう、リョウ!!」

加奈子はもう一度鉄パイプを握ると、南京鍵目掛けて振り落とした。

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