《MUMEI》

先に左へ移動し、
今度は素早く右へ動く。


くそ!


動きに合わせるので精一杯だ。


ふと安藤の足元を見ると、
なんとボールを所持していなかった。


なんやて!?


動揺し、目を見開く俺。


その時俺の股の間を、
何やら白い物体が通過した。


え?


慌てて振り返ると安藤が、
抜け出たボールを拾い、
全くの同スピードで走り去って行く。


!!!


この時気付いた。


奴はわざと近付いて、
相手の視界に足元が写らないようにし、
上半身だけに気を向けるようにする。


そして相手がお望み通り、
自分の上半身だけに集中しているうちにボールを前に蹴る。


相手の股の間をボールがすり抜け、
安藤は難なく後ろに回り込んでボールをキャッチ。


俺はまんまと引っ掛かったという訳だ。

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