《MUMEI》

ぼくの毛は人を覆い尽くす程に生えていて、ところどころにもがいている人の手が見えた。
とても申し訳無い。

途中、きらりと光るものが視界に入った。
……鍵だ。
千秋様の物かもしれないから拾っておくことにする。

四方八方に生えた髪をカットして、泳ぎながら千秋様の元へ向かう。


入口は髪でまみれているので、窓から侵入した。

窓にも僕の髪がみっちり入り込んでいて、髪に頭ごと突っ込んで、手探りで千秋様を探す。


「ちあきさま!」

腕を捕まえられたので、それに応えて引き上げる。



「残念、違うよ!」

掴んだのは、千守さんだった。


「うわああああああ!」

驚きのあまりに、睫毛が発毛して、千守さんに直撃した。


「痛っ!」

千守さんがぼくの睫毛に押されて髪の毛の中に埋まった。


「ああ、びっくりした……」

そして気を抜いてると、いきなり足首を掴まれた。


「ぎゃああああ!」

睫毛が絶叫と共に発毛した。


「馬鹿者!此処だ!」

聞き覚えのある声に安心した。
どうやら千秋様は僕の髪の毛で二階から一階に押し出されたようだ。


「ちあきさま!ご無事でしたかああああ!」

その場で涙と睫毛が溢れ出してきた。

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