《MUMEI》
悪夢は終わらず・・
「彩、一応・・これで下がるべきだと思う。ごま達と戦ったリザードマンが「首狩」だったとすれば・・生存者は絶望的だ。」
「・・・・仕方ないね。私やバンプでも・・辛すぎる。撤退するよ。」
そう言うと、狩月を背負い、歩き出す。
「俺はまだ動けるぜ。」
「急ぎだから我慢してくれ。」
ロシュを担ぎ上げ、彩詩に続く。
(私は・・間違っているのか・・姉さん・・)
魔力を使い尽くし、重い体を引き摺るように歩く。
鎧を伝って血が地面へ落ちていく。
(彩詩姉さんを・・敵に回して・・・)
後ろから聞こえる彩詩のものであろう足音を聞きながら出口に向かって歩く。
第8階層で負った傷からも血が溢れている。応急処置した傷が開いたのであろう。
(復讐なんて・・くだらないって怒る・・だろうな。)
視界が黒く染まっていく。槍を持つ手が血で滑り、そのまま倒れこんだ。
(それでも・・・私は・・)
薄れていく意識の中、彩詩がこちらに駆け寄ってくる足音がやけに鮮明に聞こえた。

「リース!!」
前を歩いていたリースが倒れた。
急いで駆け寄り、抱き上げる。
「彩、どうした?」
後ろからバンプが走り寄ってくる。
「バンプ、狩月をお願い。血止めだけでもしないと・・危険すぎる。」
リースの鎧を脱がせながら傷の箇所と状態を確かめていく彩詩。
「俺は歩けるって!犬っコロはそこの坊主担いで行ってくれや。」
ロシュがバンプに抗議するように言い、バンプから離れる。
「彩、先に行くぞ。狩月も結構危険な状態だからな。」
狩月を担ぎ上げ、歩き始めるバンプ。それに続くロシュ。
「頼むよ、止血終わったら大急ぎで行くから。」
リースの傷口に手を当て、治癒魔法を使い、血止めをしていくが、深い傷が多すぎる。
「何だって・・こんなボロボロに・・」
リースの体には直りきっていない傷も多数あり、そこからも血が流れ続けている。
「死なせるもんか・・絶対に助けるから・・」
包帯を強く巻き、血止めにするが、包帯もだんだんと紅く染まっていく。
キシキシキシ・・
背筋が寒くなるような声が聞こえた。
ヒタリ、ヒタリ・・
振り返った彩詩の前に佇むリザードマン。
「・・「首狩」・・」
リースを抱き上げ、距離をとろうと後ずさる。
キシキシキシ・・
後ずさった彩詩をゆっくりと追いかけるリザードマン。
腕の中のリースからは次第に体温が失われていく。迷っている時間は無かった。
リースを抱えたまま、リザードマンへと突撃、全力で剣を振りぬき吹き飛ばす。
「これで・・少しは・・」
そのまま反転し、出口へと疾走する彩詩。左腹部に深々と剣が刺さり血が溢れている。
「急がないと・・・」
刺さった剣を抜き、痛みに顔を歪めながら出口へと走る。
背筋が凍えた。危険だと確信して、壁に当たるギリギリまで横に飛ぶ。
直後、後方から飛んできた岩塊がすぐ脇を通り抜けた。
キシキシキシ・・
自分の認識が甘かった。ヒトを抱えたまま逃げれる相手ではない。
「・・・最悪。でも・・逃げるしかないんだよね。」
毒づきながらも後退していく。

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