《MUMEI》

「見たい?」

聞いてみると目を背けられた。

「見なよ、鳥さんが与えた傷だよ。」

構わず、ぼくはベルトを外す。
入れ墨は、鳥さんみたいに立派なものじゃないけれど、ぼくの嫌なとこに掘ったので不満は無い。
内股の、母さんの煙草を押し付けた傷があるところ。

母さんは急に泣き出したり喚いたりして、いつもと違うときがあった、その時は決まってぼくを叩いたりする。

ある日、煙草の火をぼくの背中に落としたことがあった。
それは不注意だったんだけれど、何かスィッチが入ったみたいに、男の人の名前を叫びながら、精器の周りを長い爪で引っ掻いたり、火を押し付けたりされた。

その一件から、母さんが家に帰らなくなった。

それからぼくは、怪我をした鳥を捕まえた。
家には何も無くて、食べるものを与えられず、殺してしまった。

たまに帰る母さんはご機嫌に見知らぬ男の人を連れて来ているか、苛々してお金を置いて、すぐ眠ってしまうかのどちらかだった。


「もう目立たなくなったけど、そこに母さんの付けた烙印が押してある。」

ぼくは、その傷を見てはあの人の子供だったことを思い出す。
可哀相な人。
同情は出来るのに愛情は生まれない。

でも、その上から入れた墨はぼくが憧れて止まない翼が刻まれている。
触れたくないものには蓋をすればいいんだ。


「本当だ。」

入れ墨に触れて、傷を確認される。
なんだか、緊張する。
神聖な儀式のようだ。


「気持ち悪い?」


「……それは俺の質問だろ。」


「そんなこと思わないよ。」

だって、ぼくは鳥さんに会いたかったんだ。
、ぼくらはお互いの一部だったのだから。


「そうやって、美化するな。お前の世界にまだ俺が生きていることが辛い、俺に踏み込んでくるなよ……何もやれない。」

見返りなんか俺は求めてないのに。


「体が焦げ臭い。起きたら煤に塗れたんじゃないかといつも枕を見るんだけど何も落ちてないんだ。」

手の平を嗅ぐ。


「……体は洗えばいい。俺は汚い方が好きだけど。」


「鳥さんは焦げる臭い知らないでしょう。」


「いつも鉄の臭いはしている。」

きっと、血の臭いだ。


「本当だ……」

確かめるために、ぼくは鳥さんの手にある絆創膏の傷を舐めた。
微かに鉄の風味がした。

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