《MUMEI》

「あれはそれまでに、私達が与えてきたダメージの蓄積があったからだ。それが無ければ貴様など、欠片も残さず奴に喰らい尽くされていたわ」

「そんな言い方は無いだろう?俺のおかげであの時は生き延びる事が出来たんだ」

「生き延びるだけなら、貴様を身代わりに仕立てあげた時点で事足りたんだ。幾つもの偶然が生み出した勝利に自惚れて、何時までも調子に乗った口を叩くな」

「フッ…相変わらず口の悪いお姫様だ」

「そんな事より、向こうはまだやるつもりのようだが、相手をするのか?」

 見ると残った右腕で落とした片刃の剣を拾い上げ、血の気の失せた幽鬼のような面持ちで、疲労感漂わせ、ゆらぁりと立ち上がるライナスの姿。

「もちろん。立ち上がってこなくなるまで付き合ってやるさ」

「程々にしておかないと、また目覚めるのに時間が掛かるぞ」

「了解」

 両手に下げた二丁の銃を持ち直し、ブラッドはライナスに改めて向き合うと、片側の口の端をぐいっと持ち上げ笑みを形作る。

「片腕奪られてまた立ち上がるなんて、意外と根性があるじゃないか」

 ブラッドの瞳が悦びに妖しく光る。

「さあ、続きを始めようか」



 左腕の激痛と朦朧とする意識の狭間でライナスは必死に自我を保ち、余裕の表情を浮かべこちらに対峙する敵の姿を睨み据える。

(何をやっているんだろうな。俺はこんな所で……)

 集中力が切れ始めたのか、ライナスはぼやけた思考の片隅で、そんな事を何とはなしに考えていた。

(どういったいきさつでかは思い出せないが、一度死にかけて、助かったのかと思えばナイト・ウォーカーなんて得体の知れない、お伽話の中の話とばかり思っていた化け物に成り下がり、今はその化け物相手に意味が有るのか無いのか解らない殺し合いをして、また訳の解らない死に瀕している)

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