《MUMEI》

 …………女の子?

 長いプラチナブロンドに透き通るような白い肌。大きなアイスブルーの瞳。

 ヨーロッパの絵本なんかに出てくる妖精が、狭いおとぎ話の世界から、広い僕らの世界に抜け出してきたような、そんな可愛らしい10歳くらいの女の子。

 その娘が櫻井さんの前で立ち止まる。

 彼女は自分の身体より少し大きな白衣を纏い、弾む息の間を縫って喋りだした。

「叔父さん!マイ見なかった!?」

「職場で叔父さんは止めなさいといつも言ってるだろう、命流」

 注意を促す櫻井さん。しかしその顔は嫌がっているようには見えない。むしろだらしなく崩れていると言ってもいい。

「そんな事はどうでもイイの!それより今はマイなのっ!マイってば、またワタシのお菓子食べちゃったの!?もう、今日っていう今日はただじゃ済まさないのぉっ!!」

「別にいいじゃないか。お菓子の一つや二つくらい」

「一つ二つじゃないのっ!やぁっと手に入れた限定のチョコだったの!アフタヌーンティーの時に食べようと、すぅっっっごく楽しみにしてたのにぃ〜〜…………。
 とにかく叔父さんはマイを見付けたらワタシの所に連れてきてほしいの!」

 百面相のようにくるくると表情を変えて言いたい事だけ言い尽くすと、僕達が来た方向へ来た時と同じようにトットコ走り去ってしまった。

「お願いなのぉぉ〜〜…………」

「いやぁ、済まないね。お見苦しい所を見せてしまって」

 呆然と遠ざかる彼女の後ろ姿を見送る僕に、櫻井さんは気持ち嬉しそうに声を掛ける。

「櫻井さん、今の娘は?」

「私の姪だ」

「姪っ!?」

「全然似てないって言いたいんだろ?」

「え、いや、そんな事は…………」

「はっはっは、気を使わなくても構わないよ。彼女は弟の末の娘でね。嫁さんがイギリスの人なんだ。どうやら外見のほとんどは、その嫁さんの家系に持ってかれてしまったようでね」

「は、はぁ…………」

 再び足を動かし始めた櫻井さんに、中途半端な愛想笑いを浮かべて相づちを打つ。

 しかし身内の、しかも子供が出入りしているなんて、本当に大丈夫なんだろうか。ここは?

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