《MUMEI》
VS 1 House keeper
 「取り敢えず、まずは掃除から!」
翌日、早朝
結局訳が分からないまま教師寮に住まう事になってしまった岡本
一体何から始めればいいかを考え、そして井上が出したその結論は
寮内の、清掃だった
物置に押し込められたまま使われていた気配のないモップとバケツを見つけ
ソレを意気込んで抱え上げる
「まずは廊下!その次は……」
意気込む声は段々と小声に代わり
そして視線を向けた其処は
あの四人の、個室
閉じたままになっている其処を順々に眺め見ながら
「叩き起こしてでも部屋掃除してやるんだから」
決意を固め、その勢いのまま向かったのは
一番苦労が少なさそうな桜岡の部屋
お早う御座います、の挨拶と共に戸を叩こうとした、寸前
「やめといた方がいいぞ。命が惜しかったらな」
背後からいきなりに聞こえてきた岡部の声に引き留められた
そちらへと向き直ってみれば
共有スペースのソファに身を寛げている岡部の姿が
どうやらそこで寝起きしているのか
枕代わりにしているらしい辞書と、毛布がそこに置かれている
「岡部、先生?何で此処に?」
自室がすぐ其処にあるのに、と訝しむ岡本へ
岡部は寝ぐせに乱れた髪を手櫛でさらに乱しながら
「今日やる小テストの問題作ってたら部屋に戻るのが面倒になった。それだけだ」
「面倒になったって……」
「で、お前は?モップなんか抱えて俺らを撲殺でもする気だったか?」
話しをすっかり岡本方へとすり替えてきた
だが言われて見て、岡本は自身が随分と勇ましい格好をしている事に気付く
「そ、そんなんじゃないもん!唯、掃除しようと思ってただけで」
「掃除、ね。ま、精々気を付けるんだな」
余り変わらない無表情のまま
岡部は岡本の頭へと手を置くと、そのまま自室へと入っていく
気を付けろ
一体何に気を付けろと言うのか
解る筈もない岡本が首を傾げていると
その足元で何かが動く音がした
「何……?」
小刻みに動く何か
岡本は恐々ながらもそちらを伺い見れば
次の瞬間、岡本の顔が引き攣り始めた
「……ゴ、キブリ?」
ツヤツヤと黒光りするソレを見、岡本の動きがピタリととまる
暫く、その黒い奴と対峙し、そして
「嫌――!!」
建物中に響く大絶叫で、岡本はそれから逃げようと近くあった岡部の部屋の戸を遠慮なしに開け放った
その騒動にも関わらず熟睡中の岡部
その岡部を岡本は半ば涙目で起こしに掛った
「起きて!ねぇ、起きてってば!!」
「あぁ?」
いきなりの騒動に、寝入りたばかりなのも手伝ってか不機嫌そうな岡部
だが居間の岡本にはそんな事を気にかけている余裕などない
「起きて、早く!ほら入ってきちゃったぁ!」
「うるせぇな……。耳元で喚くな」
いつの間にかベッドの上に乗り上げながら
岡部に縋りつきすっかり涙目の岡本へ
やれやれ、と溜息が岡本の頭上から聞こえてくる
「……ゴキブリ、苦手なんだな」
「だ、誰だって苦手よ。こんなの!」
早く何とかしてほしい、と本格的に泣きだしてしまった岡本へ
岡部は何度目かの溜息をつくと漸くベッドから降りる
床を這うソレを気安く取ってあげるとそのまま部屋の外へ
何所へ行くのか後を付いていき、到着したのは
平田の部屋だった
「大吾、入るぞ」
ノックをする事もせず戸を開け放ち中へ
その内装を目の当たりにし、岡本は再度身動きが取れなくなっていた
原因は部屋中に置かれている大小様々なgガラスケース、その中のモノ
部屋中何処を見ても虫、虫、虫で
岡部の後に続きその中に入ってしまった岡本はそのあまりの量に卒倒しそうになる
「何だ、トラとメイドちゃんかよ。何か用か?」
その部屋の主は居たって平然としていて
大量の虫と楽しげに戯れながら、岡本達へと一瞥を寄越した
「まぁ、テメェの趣味にとやかく口出す気はあまりねぇが……」
「はぁ?だったら何だよ?」
「……虫、テメェの部屋から出すな。廊下の方まで湧いて出て来てんだろうが」
「別にいーだろ。何か文句でもあんのかよ?」
文句を言われるのがさも心外と言わんばかりの平田
常識的に考えれば岡部が言っている事が尤も
だが平田にしてみれば納得がいかなかったらしかった

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