《MUMEI》

.

わたしがそう言うと、隆弘は「3年も!?」と素頓狂な声をあげる。

「冗談でしょ?ブランク長すぎじゃない?」

有り得ないと言わんばかりの口調だった。

わたしは笑うのをやめ、そこで口をつぐむ。一般的に、彼氏が3年いないというのは、そんなにおかしいことなのだろうか。

少し気まずくなって、わたしはまたビールを飲んだ。

隆弘はお構い無しに、話を続ける。

「3年間も独りでいて、寂しくないの?」

その問いかけを聞いて、わたしはうんざりした。それは、よく聞かれる質問だった。


わたしはビールを飲み干して、空になったグラスをテーブルに戻し、「全然」と、素っ気なく答えた。

「独りの方が気楽だし、好きなこと出来るし。今は恋愛に興味ないから」

本当にそう思っていた。

確かに、独りぼっちが辛い時もあった。

でもそれも昔の話。

3年という月日を独りで過ごしていれば、否応なしにそれは習慣化してしまう。


―――人は、慣れるのだ。


例えそれが、どんなに苦しく寂しいことでも、

順応する能力を、人間は生まれながらにして、兼ね備えているのだろう。


けれど、わたしの言葉は、隆弘にはただの強がりにしか聞こえなかったようだった。


隆弘は身を乗り出して、「もったいないな…」と、呟いた。

「そんなにキレイなのに、恋愛に興味ないなんて」

取って付けたような台詞に思え、わたしは少し、気分が悪くなった。そんな使い古されたようなお世辞なんか、聞きたくもなかった。

わたしは隆弘の顔を見ずに、ため息をつく。

「恋愛なんか、もう懲り懲り。誰かと付き合って、楽しかった想い出なんか、今までなかったもの」

敢えて冷めたように早口でまくし立てて、わたしは窓の外を眺めた。夜の新宿はとても賑やかで、街のネオンが眩しかった。

隆弘はそんなわたしを眺めて苦笑し、テーブルに頬杖をつく。

「前の彼氏って、どんな奴だったの?」

サラリと、ごく自然にそんなことを尋ねてきた。わたしはゆっくり視線を巡らせて、隆弘を見る。

彼の優しい眼差しを正面から見つめ返しながら、


「ウソツキでした」


ごくシンプルに答えた。


.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫