《MUMEI》

.


「残念なんて、思ってないくせに」

「どうして?本当に残念だよ、俺」

「ウソ。そんなこと、これっぽっちも思ってないわ」

「どうして?どうして、そんな風に思うの?」

間髪入れず、繰り返された隆弘の台詞に、わたしは笑うのを止めた。

彼の瞳を真正面から見つめて、「…だって」と、呻くように、呟いた。



「隆弘さん、結婚されてるでしょう?」



―――ずっと、抱いていた、疑問だった。



土曜、日曜には、隆弘からの連絡は一切ない。連絡が欲しいと言っても、返事が来るのは週明けの月曜。


今日、ここに来て、

隆弘と話をして、


わたしは、確信した。


隆弘は、わたしに何か隠してる。

わたしにバレては困るような、何か、が。



わたしは、隆弘の顔を見つめたまま、震える唇で、繰り返す。

「…結婚されてますよね?」

その微かな問いかける声に、隆弘は一瞬眉を曇らせた。

わたしから目を逸らして、虚空を見つめると、頬を指で撫でながら、



「…うん」



小さく、頷いた。



ああ、やっぱり。

そう思った。


それと同じくして、

わたしの心の一部分が、カラカラと、乾いた音を立てて、壊れた気がした。



やっぱりね。
ほら、ごらん。

『好きだ』とか、『一目惚れした』とか、やっぱりウソだったじゃない。

そんな薄っぺらい言葉なんか、あわよくばベッドインする為の、単なるリップサービスなんだよ。


信用なんかするもんじゃない。


どうせ男なんて皆、『アイツ』と一緒なんだから。



わたしは、「当たり」とおどけて笑った。

「ダメでしょう。奥さんがいるのに、他の女に思わせ振りなこと言ったら」

やんわりとたしなめるように、わたしは言った。それが精一杯だった。


.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫