《MUMEI》

「おい、賀川…」

授業の終わりに彼に話しかけると、相変わらずの美しい顔で俺の事を睨んできた。

「俺の…気付いてたのかよ」
「何の事だ…」
「何って…」

さっきまではイケると思ったのに、一旦離れた事で俺への興味が無くなったのか素っ気ない反応に変わっていた。

「なぁ、一緒に食堂に行こうぜ」
「……」

こういう奴にはしつこく付きまとうに限る。

どうせ巽が行くのは決まって食堂のテラスに近い、窓辺だけど影の掛かる場所だ。

一緒にメニューを選んでその同じ席に座ると、一緒に昼飯をとった。

「…結構食べるな」
「お前はそんなに食べねえのな、背ぇ高けぇのに」
「お前と…同じくらいだ」

俺はカツカレーにパンに焼きそばで、巽はお坊ちゃんらしく和定だった。

「ふ〜ん…俺の身長知ってんだ♪」
「一緒に歩いてれば分かるだろ」

俺の髪は巽とは違って上にツンツンと立っているから、本当は巽の方が背がちょっとだけ高い。

それに鼻も巽の方が高いし、指だって巽の方が長いだろう。

その巽の指先は器用に箸を使い、綺麗に鮭を食べていた。

「……」

…人の食べてるモノは美味しく見えるもので。

しかも巽が綺麗に食べているので、より一層美味しそうに見えた。

そんな塩鮭に手を伸ばすと、巽が何かを言う前に皮ごとヒョイッと全部頂いてやった。

「あっ、お前……」
「うめぇな♪」

俺が巽に向かってニコッと笑うと、それを見た巽はムスッとした顔で俺を睨んでいた。

「ひょ(そ)の顔もそそるな♪」
「バカなのか…お前は…」

メインを取られて機嫌の悪そうな巽は、チラッと俺の手元を見るとそこにあった俺のカツをさっと取って食べてしまった。

「お前肉食えるのか」
「食えるぞ、俺を何だと思ってるんだ」
「肉も食わねぇような成人君主様」
「……鮭は生き物だろう、俺はベジタリアンじゃないぞ」

なかなか可愛い巽を見ながら、二人で一緒にシェアしながらお互いのランチを食べ合った。

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