《MUMEI》
万引きは犯罪
「ふう」
パンを平らげて、彼女は一つ息を吐いた。
「お腹も一杯になったし」
そう言いながら、すっと立ち上がる。
そして、キッとタイキを見下ろした。
「じゃあね。あんた、万引きなんかしちゃダメだよ。万引きは、犯罪です!」
「え、いや、ちょっと!」
タイキの声を無視して、彼女は去って行こうとしたが、すぐに立ち止まった。
その視線の先にはこちらへ向かう黒いスーツの男たち。
ミユウは自然な仕草で体の向きを逆にすると、早足で去って行った。

 タイキは茫然とその背中を見送っていた。
「なんなんだよ。万引きしたのは、自分だろうが……」
タイキの呟きは、虚しく風にさらわれた。

 結局、まともな会話もできなかった。
いや、別に何かを期待したわけではないのだから別にいい。
そもそも、話をしようとも思っていなかったのだ。
あのスーパーから猛スピードで走り去った姿が気になっただけだ。

 たまたま見ていただけなのに、ケンカを売られ、万引きの共犯にされ、なぜか注意されて、取り残された。

理不尽だ。
スッキリしない。

一度、ガツンと言い返せば良かった。
もし、また会うことがあれば、今度は絶対に言い返してやる。

 固い決意に燃えながら、タイキは帰途についたのだった。

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