《MUMEI》

 剣を手にした右手が小刻みに震え、身体には逃れようのないけだるさがのし掛かってくる。

(こんな事では主の御許へなど、到底行き着く事など出来はしないな……)

 苦笑が込み上げてくる。それを噛み殺す為一瞬目を離すと、ブラッドが動きを見せた。



(何だ?笑っているのか?)

 今までに無い表情を見せるライナスに訝しがるブラッド。

(気でも触れたのか、それとも何か策でも思い付いたのか……。どちらにせよ試してみるか)

 左に持った銃を構えるとライナスの心臓に照準を合わせ引き金を引く。


 ガゥンッッ


 銃声を耳にしたライナスは自分の侵した致命的なミスに気付き顔を上げると、不可思議な光景を目の前に映し出されていた。

 音の速度に近いスピードで襲い掛かる銃弾が、異様としか言い様の無いゆっくりとしたスピードで空気の層を突き破りながら迫り来るのが、肉眼ではっきりと見て取れる。

 それをその場を移動する事で難無く避すと、それまで立つことさえ辛かった身体が、まるでウォーミングアップの直後のように自由に動く事に気付いた。

(何だこれは?)

 疑問符が頭を埋めて行くが、今はそれらを無視する事にして目の前の敵へ向かう。

 空気が妙に身体に纏わり付き、水の中を歩くような抵抗を感じながらブラッドに近づくと、彼はゆっくりと余裕の表情を貼り付けた顔を驚きに変えながら、この異常な空間の中で微動でしか動けないでいる。

(時間の流れが遅くなっているのか?ともかくこの機を逃す手は無いな)

 腰溜めに構えを取りブラッドに向かって跳ぶと、剣を大上段に構え袈裟掛けに振り下ろしたその瞬間――。

 今まで明後日の方向を見ていたブラッドのサングラスの奥の金と銀の瞳がギロリと動き、ライナスを睨み付けた。

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