《MUMEI》
どうしたって逆らえない
肩に乗るおじさんは乙矢と少し重みが似ている。

「おじさんって、父さんのこと大好きですよね。」

父さんがテレビに気を取られている間に、おじさんは父さんの横顔を見つめていた。
それが幼心に焼き付いていて、今になって知ったのだ。

「なんか不毛じゃないですか……」

お互いに家族同然の関係で、近くにいながら言葉に出来ないなんて。
俺も七生も好きって気持ちはいつも確認したくなるのに、それだけ気持ちが溢れた。


「不毛なのは彼を好きになった時点でだよ。
これはね、叶わない方がいいんだ。
君の父さんのお陰で慈しむ気持ちを学んだ、でも君の母さんにもそれと同じくらい学んだからね。
欲張りなんだ、友情も恋も両立したかった、苦しくても君の父さんを想い続けたいエゴがこうさせた。愛と恋は違うだろ?
好きなんだ、彼の声や仕種が、それが自分の名前を呼んで触れてくれる時間を壊したくないんだ。」

おじさんの言葉は長い年月を経た重みがある。
世の中には、そういう考え方も存在するのか。


「俺じゃあ完全には理解できません……」

おじさんの気持ちを想像したらちょっと寂しくて、七生に会いたくなった。


「捻くれてるからね、私も木下君も。」

足まで捩くれているようで、釣られて俺も千鳥足になりそうだ。


「父さんが?」


「わざとに、はぐらかして……線引きをしっかりしてくれてるんだけどね。二郎君は見てたでしょ。」

俺がなにを見ていたって……?
自分に問い掛けていると、急に自分の記憶の断片が掘り起こされた。

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