《MUMEI》

 緊張しながら扉の先へと一歩足を踏み入れる。

 しかしそこには、これまで通ってきた場所とたいして変わった所など見られない、同じような通路がさらに続いていた。

「代わり映えが無くてがっかりしただろう」

「え?いえ……そんな事は……」

 実際は、あれほど重厚な造りをした扉の先には、いったいどんな未来な空間が広がっているんだろうと空想を膨らませた分、内心では少なからず拍子抜けしていた。

「そうかい?ここは一昨年改装したんだが、去年入った新人の娘にかなりがっかりされたんでね。今年もそうかなと思っていたんだが……と、今はそんな話はどうでもいいか。ちょっと失礼」

 携帯を取り出すとどこかに電話をかけ始める。

 しかし地下とはいえ東京のど真ん中に、まさかこんな施設があるとは思わなかった。結構な時間歩き回っていたように思うけど、ここはいったいどの辺りになるんだろう?

「さて、それじゃあ君の直属の上司になる人に会いに行こうか」

 電話は終わったらしく、櫻井さんが三度僕を先導する。

 ――――上司。

 その単語に僕の緩みかけた緊張感が再び引き締まる。

 一体どんな人なんだろうか。やっぱり体育会系の体格のガッチリした男の人なんだろうか。それとも知的で怪しい雰囲気を醸す眼鏡の優男だろうか。

 どちらにしろ性格は面倒見の良い優しい人だといいなぁ。俺様な性格だとちょっと辛いけど、陰湿だったり人見知りな性格よりはマシかな。

 いや、そんな事より第一印象が肝心だ。どんな人が相手でも、最初に気に入られなきゃ人間関係なんて上手く行きっこない。

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