《MUMEI》

 ちょうどその時、一枚の扉の前で立ち止まった。

 扉の横の壁には『テストルーム』と刻まれたプレートが差し込まれていた。

 櫻井さんがプレートの下にあるセンサーにカードをかざすとピッという機械音が鳴り、扉が左右にスライドして壁の中に吸い込まれた。

 通路より一段明るさを落とした中には、よく解らない機材が四方の壁に沿って並んでいる。そのせいで、十畳間くらいありそうな部屋なのに、実際の半分くらいの広さにしか感じられない。

 そこでは3人の眼鏡と白衣を着た頭脳労働専門といった感じの風体の男の人たちが、忙しなく機材を操り作業を行っていた。

 ひょっとしてこの中の誰かが僕の上司になるんだろうか?

「やっ、ご苦労さん」

 櫻井さんが作業中の男の人たちに労いの言葉を掛ける。

「弓香君はいるかな?」

「これは局次長。彼女なら隣でテスト中ですよ」

 3人の中で一番年輩そうに見える、長い髪を後ろで結んだ無精髭の男性が答える。

 無精髭の男の人が視線を向けた壁には、重厚な密閉式ドアと大きなガラス板が嵌め込まれ、隣の部屋の様子を窺い知れるようになっている。

 ガラスの向こうは、僕が最初に櫻井さんから手酷い暴行を受けた、がらんどうの真っ白な空間を、8分の1くらいに縮めた感じの部屋で、そこにあちこちから色とりどりのコードやチューブを生やした、均整の取れたプロポーションがくっきり浮かび上がる、真っ赤なボディスーツに身を包んだ一人の女の人がこちらに背を向けて、ボディスーツ同様コードを生やした2メートルくらいの素材の解らない棒を手に精神統一を行っているようだ。

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