《MUMEI》

引っ越してすぐ、初めてキャンプに行った時だ。

寝る前に歯を磨くため七生達と給水所に行った。
七生のおじさんが居たから安心していたが、父さんと乙矢のおじさんが居ない。
俺は探すために一人で茂みの中に入った。


父さんとおじさんはすぐ見付かった、木の影でしゃがんで何かを見ていたようだ。
俺は二人に寄っていく、そして近付いて分かったのだが、実は長いキスをしていた……。
息が出来ないようなやつだ。

幼い俺はそのキスの意味が分からず、固まっていると父さんは頭を撫でてくれた。
乙矢のおじさんは俺の頬に優しいキスをした。
それで、いつもの父さん達だと安心が出来た。


「三人だけの秘密ね。」

と、父さんが言ったのを俺は律儀に守っていた。




「……裏切ってる気持ちはあります?」


「いいや、二郎君と私がキスするくらいの些細なものだからね。」

おじさんは酔って俺の頬にキスをしてきた。


「おじさん!」

酔っ払い!


「はは、木下君の子供じゃなかったら口説き落とすくらいにいい子だけど、木下君の子供だから愛してるよ、由加里と乙矢と妻の次くらいに。」


「一番は父さん?」


「片思い中だから、一番は妻だよ。」

おじさんは嘘つきだ。
両思いのくせに、これだから大人は信用出来ない。


「俺は一人しか好きになれないからそういうのわからないです。」


「乙矢のこと受け止めれなかったのも、十分に優柔不断なんじゃない?」


「それは……」


「ごめんごめん。意地悪しちゃった。」

おじさんがいつもみたいに和やかに笑う、でも俺の心は掻き乱されたままだ。


「おじさんが、おばさん達だけを愛せてるならいい。……俺には出来ないけど、おじさんには出来ることなんでしょう?」

俺は好きが、愛しているになったから。

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