《MUMEI》

「まず中に入るのは二人だ。一人は外で見張りと脱出誘導」
それを聞いてケンイチが不思議そうな表情をするのでユウゴは補足する。
「警察や奴らの仲間たちが来ないよう見張りつつ、脱出時の合図をする係だ。敵が出口にいるときに勢いで飛び出したら面倒くさいことになるだろ?」
しかしケンイチは難しそうに眉を寄せた。
ユウゴは片手を軽くひらひらさせながら「ああ、まあいい。これは織田に任せる」と続ける。
「で、中に入る二人、つまり俺とケンイチはできるだけ前の方に座る。並びはケンイチが俺の前の席だ。俺のことがばれないようにカバーしてくれ」
ユウゴが確認するようにケンイチを見ると、彼は今度はしっかりと頷いた。
「で、肝心の攻撃方法だけど……」
「銃でいんじゃねえの?」
ケンイチが言う。
「弾は少ないけど、相手は一応ちゃんとしたターゲットなんだし。座ったままでもやれるし」
「そうだな。じゃ、一人がターゲットを射殺。もう一人は警護の相手だ。ちなみにおまえが警護の相手な」
するとケンイチはあからさまに不満そうに表情を歪めた。
「なんでだよ。俺が前に座るんなら、俺がやるほうがいいじゃん」
「馬鹿か、おまえは」
ユウゴはため息をつく。
「おまえが前に座るから、俺がやるんだろうが。おまえの陰からこっそり狙えるだろ」
「だったら俺が後ろに座る」
「意味ねえだろ、それじゃ。つか、文句言うなよ。織田なんか一言も文句言わねえぞ」
ユウゴが織田に視線を向けたが、彼は興味なさそうに別の場所を見つめていた。
「織田は自己主張がなさすぎなんだよ」
ケンイチはそう言って舌打ちをすると「間違っても俺を撃つなよ」とユウゴを睨んだ。
「おまえにだけは言われたくない。まあ、努力はするよ」
ユウゴは軽く皮肉めいた笑みを浮かべてみせる。
その笑みをケンイチは疑わしそうに見つめていた。

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