《MUMEI》

 ふと、克哉君が僕の事をじっと見つめているのに気が付いた。

 何だろう?僕に変な所でもあるのか…別にメガネがどうかなってるとか無いだろうし…。

 あぁ、もしかして寝癖か?たまに付けたまま来て怒られたりするけど…でも今日はそれを反省して玄関に置いた鏡の前できちんと直してきた筈だ…。

「はい出来た!」
「痛てぇよ先生〜!」
「ただの捻挫だ、今日は腫れるかもしれないけど大丈夫だから」

 怪我をした生徒の足首に湿布を貼って包帯を巻いて固定している間も、克哉君はじっと僕の事を見つめているのが視線の端から見えていた。

(何なんだろう…)

 この真っ黒な黒髪が、日本人のママに似てる、とか…かなぁ?


 そういえばこの前なんか買い出しと周辺の散策も兼ねてこの辺の商店街をキョロキョロしながら歩いていたら、後ろから男の人に声を掛けられる事があった。

 勧誘か?と思ったら『ねぇねぇお姉さん』だって、それも一度じゃなく何度もだ。

 面倒クサくてしばらく伸ばしっぱなしにしている、このちょっとだけ長い髪がいけないのかもなぁ…。

 こっちに赴任されて日も短い事もあって、ほとんど学校と家とを往復するだけの毎日なので、なかなか床屋さんなんかがどこにあるのかも分からない状態だった。

(肩につくか、他の先生に注意されたら行けばいいか…)

 …でも、そんな事に克哉君が反応してるワケじゃないよな、それに克哉君は別にママが恋しいって年齢でも無いだろうし。

 あぁ…でも、イタリアも入ってるんだろ、イタリア…パスタとマンマの国か…。

「先生…」
「はいっ///」
「もう帰っていい?」
「あ…はいはいι」

 ぼんやりと考え事をしていてついうっかり呆けてしまっていた、本当に何やってんだか…。

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