《MUMEI》

「言いたい事があれば全部僕に言っていいぞ、もし秘密にしたい事だったら僕は誰にも言わないから安心して」
「はい…」

 それにしても、年頃の男の子に言うのも何だけど…。

   可愛い…。

 いつも気丈で精悍なのに、いま克哉君は弱々しい姿で僕の目の前に座っている。

(いかん、いかん…そんな事考えちゃ…)

 相手は少なくとも僕を頼ってくれているんだし、僕もそれに答えなければいけない立場なんだと肝に銘じた。


「……」
「……」

 一向に何も話してくれないまま10分くらい時計が進んだだろうか、急に克哉君が僕の顔をじーっと見つめてきた。

「ん…話してくれる気になったかい?」

 僕より背は若干高いし、顔も子供っぽい所はあるものの、眼鏡越しだけど、その克哉君の眼孔には圧倒される。

「先生は…人を好きになった事はありますか?」
「えっ///」

 克哉君は唐突にそんな事を言ってきたので僕は面食らってしまった。

「そ…そりゃ…ね…///」

 これは…もしかして…。

 克哉君、恋をしてるって事なのかな。

 そんな可愛らしい理由で、こんなに元気が無かったのか〜。

「そうですよね…」
「良かったぁ〜恋の悩みだったんだねぇ〜♪キミくらいの年の子がこんな悩み持つのは普通だよ、心配する事無いぞ」

 僕はてっきり青年特有な不幸な悩みを抱えこんで塞ぎ込んでいたのかと思ったけど、健全な悩みの方でむしろ安心した。

 健全な、って…あれ?

 …待てよ…ココは。

…………男子校。


「…普通…ですか」
「ぁ///…と…隣の女子校の子かな?」

 この学園は共学ではないが隣には女子校が併設されているから、きっとそこの女子の誰かだろう。

「…やっぱりそう思いますか」

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