《MUMEI》
重なる情景
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二人の間に何とも言えない重苦しい沈黙が訪れてから間もなくして、ボーイがビールを二つ、運んできた。

彼がわたしと隆弘の前にビールグラスを置き、立ち去るのを待ってから、わたしは口を開いた。

「結婚されてから、もうどのくらい?」

「…8年…今年で9年になるかな」

「奥さんとは、どちらで知り合ったの?」

「知人の紹介で、ね…」

「お子さんは?」

「…いるよ」

「男の子?それとも、女の子?」

「両方。ふたりいるんだ」

「そうですか…それじゃ、賑やかでしょうね」

軽い、本当に軽い調子で、どうでもいい会話が繰り広げられる。本当にどうでもよかった。


隆弘の家族の話なんて、興味がなかった。むしろ、わたしより大切なものを抱えている彼自身にも、もう、興味をなくしていた。


わたしは冷えたグラスを手に持ち、唇に寄せた。指先が、ひんやりと冷たくなる。まるで今のわたしのように。

ビールを一口飲んでテーブルにグラスを戻すと、腕時計を見た。9時になるところだった。


わたしは顔をあげ、黙って一連の動作を見つめていた隆弘を見遣り、微笑んだ。

「…そろそろ、帰りましょうか」

わたしの言葉に隆弘は目を見開いた。「もう?」と尋ね返してくる。

わたしはもう一度、腕時計を見る振りをして、呟く。

「…ご家族が、心配されるでしょう?早く帰ってあげないと、お子さんもかわいそうです」

淡々としたわたしの台詞に、隆弘は深いため息をつきながら、両手で顔を覆った。勘弁してくれ、と言わんばかりに。


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