《MUMEI》

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俺は焦点の合わない眼で隆之を見つめ返した


「………何のことか…」

隆之は俺から目を逸らしながら溜め息をついて、誤魔化した



「…ほら」


携帯の画面が俺に向けられて




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「ぅ…ゲホ……はッ…」

「悪ぃな…無理やり見せちまった…」






トイレの洗面台で

過呼吸→吐き気

を起こした俺の背中を擦る隆之





原因はあのムービー。




映ってたのは秀一と



(秀一ほどじゃないけど…)イケメンが二人。





「…ぅ、ゴホッ………」

思い出したら

また…波が



「ごめんな佑二…ごめん…」



隆之はまだ俺の背中、擦ってくれてる


…何なんだよ



「…っは……なんで、謝んだよ…」
俺は洗面台に体を傾けたまま



出来る限り隆之の方を振り返った


隆之は困惑しきった顔をしてた


「だって」

「…良かっ…た」
「え?」

「…ありがとな」


「なんで…」

「……知れ、て…良かった…」



隆之は唇を噛んで、何か考えてから小さく頷いた。



「…今度、撮影所に行こう」

「撮影…所…?」



落ち着いてきた俺は
水を出して顔を洗う

…つめてぇ



そして顔を上げて
鏡越しに隆之を見た


隆之は

「秀一に」


真っ直ぐな奴だ


「…秀一にあんなこと、させたくないんだろ?」




俺は隆之に答えず


「…何がわかんだよ」



何を見るでもなく

横に目を流した




「佑二」

その視線に隆之が移動して来て



「秀一を、止めに行こ?」



「………」


俺はもう

目を逸らせなくて


小さく、頷いた

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