《MUMEI》
帰り道
  
 保健室で克哉くんからの相談を受けていたら、いつの間にか彼に迫られていた。

 それで気が動転してしまって、下手に逃げて机に手をついたつもりが見事に落ちてしまい、こうやって怪我をしてしまった。

 うずくまっているのを見て慌てた克哉くんは俺を助け起こすと、彼は急いで他の先生を呼びに行ってくれた。

 自分のマヌケさ加減にうんざりしながらその間に応急処置をした後、改めて病院へ行って詳しく見てもらうと、やっぱり手首がポッキリといっていた。

 捻挫だと思いたかったが、骨折となると直るのにもしばらくかかりそうだった。

 克哉くんはと言うと、その原因は自分にあると言って俺が病院から帰って来るのを待っていてくれたようだった。

「気持ちは嬉しいけど…ほら、帰りなさい」
「……」

 それでも克哉君は黙って俺の後をついて来ていた。

 彼は学園内の寮に住んでいるので、その前まで来るとちゃんと帰るよう背中を押した。

 彼は不満そうに僕の事をじっと見ていたが、やがて素直に寮の方へ向かって帰って行ってくれた。

「ふぅ…やれやれ」

(それにしても…不便だなぁ…)

 手首の骨折は幸い綺麗に折れていて、そんなに酷いワケでも無いので最低でも1ヶ月以内にはギプスも取れるが、リハビリはその倍の時間がかかってしまう。

(どうしようかなぁ…右手首だし、左で書けるようになるんだろうか…)

 帰りの夜道をトボトボと歩いている途中、暗闇に光る自販機の灯りをぼんやり眺めながら、蛾のようにその光に吸い寄せられていった。

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