《MUMEI》

(そうだ…あったかいミルクティーでも買って帰ろう)

 しかしいつものように鞄に手を入れるも、骨折で右手首に巻かれたギプスが固定されていて、手も身体も思うように動かせない。

(やっぱり利き手が使えないのは不便だな)

 小銭入れを不器用な左手で鞄から取り出すと、左手だけでは財布を開けられないので右腕に挟んで財布を開けようとした。

 でも特に使えないと言うワケでも無い大丈夫な筈の左手の指が、痛み止のせいか緊張していて財布が開けられない。

 七転八倒した挙げ句、ようやく開いた財布から小銭を取り出そうとしてまたもやモタモタしていると、いつの間にか隣に居たらしい誰かが先に自販機でジュースを買おうとしていた。

「すみません…」

 邪魔にならないよう自販機から一歩下がると、その人は突然僕の目の前に今さっき買っていたペットボトルを開けて俺に差し出してきた。

「はい」
「えっ…ぅわっ!」

 電灯から逆光になってあまり姿が見えなかったが、目の前にはやたらと背が高くて逞しい金髪のさっき寮で別れた筈の克哉くんがこっちをじっと見つめながら立っていた。

「克哉くん!ちょ…寮に帰ったんじゃなかったのか?」
「あなたの家に泊まると言って外出届出してきました」
「えっ…えぇッι///」

 ずれていたメガネをかけ直して彼の姿をよく見てみると、克哉くんはもう僕の家に泊まる気満々でいつ用意してたんだかお泊まり用のバッグを片手に抱えていた。

「…本当に来るのか?」
「えぇ、先生の片腕として」
「片腕…何か意味が違ってるような気がするんだが…」

 彼は生徒会長でもあり学業も言うことが無いくらい優秀な生徒だから…こうもあっさり外出許可が下りてしまったんだろう。

 そういう所は他の生徒と同じ様に平等に扱っててくれよ、と思いガックリと肩を落とした。

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