《MUMEI》

「先生、荷物持つよ」
「いいって、このくらい大丈夫だ」

 克哉くんが”先生に似合うから”といって買ってくれた温かい日本茶を飲みながら、家への帰り道を彼と一緒に歩いた。

 僕は身軽な単身世帯だから、こっちの学校への赴任が決まって近くに引っ越して来た。

 なので他の持ち家な教師の方々とは違って、歩いて通える場所に部屋があるので、部屋から学校のチャイムなんかも聞こえるくらいだった。

「泊まってくって事は…明日は学校にはウチから通うって事か?」

 そう聞くと、克哉君は僕を見つめながら黙って頷いていた。

「……」

”部屋に学校の生徒が泊まりに来る”って…。

 小学生ぐらいだったら分かるんだけど、高校生になった見た目はほとんど大人と同じような人間が部屋にいる姿は、友達が少ない俺にとって何か変なカンジがした。

 そのまま外で食事をして来てもよかったんだけど、克哉くんは有無を言わせず遅くまで開いているスーパーに立ち寄って材料を買ってくると、部屋に着くなり台所に立って何かを作ってくれていた。

「あぁそうだ、泊まりに来てるって事をご両親に報告しないと、克哉くん?」

 そう言うと克哉くんはその端正な眉間に皺を寄せて、急に考え込んだような顔になった。

「日本には住んでない…今はドイツ…イタリアかフランス…あいつらフラフラしてるんでどこに居るか分からない」
「へ?」
「両親は色々な所に行くんで、僕が学生の間は寮に預けられてるんだ」
「へぇ…あ、両親を”あいつら”って言っちゃダメだぞ」
「…はい」

 克哉君のご両親は彼の話を聞いてもよく分からなかったが、海外を色々と廻っている人達のようだった。

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