《MUMEI》

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薄暗い照明のレストルーム。



客がいる賑やかなラウンジから完全に切り離されたようなその静かすぎる空間に、わたしはぼんやり立っていた。


洒落た洗面台に設えられた、大きな鏡が、すぐ目の前にある。

手早く手を洗い、蛇口を捻って水を止める。ゴー…という音とともに、排水口へ水が勢いよく飲み込まれていく。


地鳴りのようなその音を聞きながら、目の前の鏡の中に浮かび上がる自分の姿をじっと見つめた。


疲れきった顔つきの女がひとり、こちらをぼんやり見つめ返している。


皮脂が浮かんで、せっかく丹念に塗ったファンデーションも所々崩れていた。
お気に入りだったワンピースも、この暗い照明の中では、華やかな印象も受けない。



…みすぼらしい女。



わたしは唇だけを動かして、鏡の中の自分に向かって呟いた。


女としての美しさとか、瑞々しさとか、そういった艶感を一切感じさせない風貌。


そう。

それが、ありのままのわたし。


化粧を直す気にはならなかった。メイクポーチをレストルームに持ってこなかったし、そんなことより、もう、どうでもよくなっていた。


わたしが美しく着飾っておしゃれをしても、それを喜んでくれるひとなど、いないのだから。



卑屈な気分に陥りながら、わたしがレストルームから出ようとした時、


不意に、声が聞こえた。



―――なんで信じてくれないんだよ!



苛立った男の、声。


遠い昔、猜疑心の塊のようなわたしに向けられた『彼』の、鋭い響き。



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