《MUMEI》

「あのねぇ、先生ぐらいの歳!になると、もうちょっとしっかりした人が好みになるの。自分の感情のままに行動する人なんて、真っ平だわ」

自分でも大人気ない行動だと思っている。

だけど…彼の為だ。

真っ直ぐに人の目を見ることができる、彼の為に。

恋に一途になるあまり、自分をも変えてしまう、あわれで可愛い生徒の為に。

「…じゃあ、ちゃんと進路を決めたら、オレのこと、考えてくれます?」

「進路を決めただけじゃダメ。ちゃんとその通りに生きなきゃ。口だけなんて、何とでも言えるから」

甘えを容赦なく、切り捨てる。

…あたしに好意を持ってくれた生徒は、大抵決めた進路の中で、本当のパートナーを見つける。

だから彼にも見つけてほしかった。

まだ小さな世界しか知らないから。

そこで出会ったのがあたしだとしても、外の広い世界にはきっと、彼に相応しい相手が待っているから。

「それじゃっ…ちゃんと進路通りに進んでっ、一人前になったら、先生は認めてくれるんですか?」

声のおかしさに気付いて彼を見ると、…泣いていた。

ボロボロと。

「あわわっ!? 何も泣くことないじゃない!」

少しきつく言い過ぎたかな?

慌ててポケットからハンカチを取り出し、彼の涙で濡れた頬をふく。

「すみまっせん…」

「いいのよ。ゴメンなさい。ちょっと言い過ぎたわ」

年下に、…いや、生徒にムキになった。

教師失格だ…。

でもここで、投げ出すワケにもいかない。

あたしは教師なんだから。

このコの担任として、振るまわらなきゃ。

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