《MUMEI》

ここまではっきり聞こえるのは…幻聴なんかじゃない。

驚いて顔を上げたあたしの目に映ったのは…立派な男性になった、彼だった。

「どっどうしたの? あっ、久し振りね」

突然のことに、あたしはパニックを起こしていた。

けれど彼は優しく微笑んで、近付いてきた。

「オレ、教師になったんですよ。先生と同じ、数学教師に」

「えっ…そうだったの?」

あれから音沙汰は一切無かった。

手紙も電話もなく、同窓会にも彼は出席しなかった。

だからてっきり、新しい彼女ができたとばかり思っていたのに…。

「それで、今年からこの学校に赴任してきたんです」

「えっ、そうなの?」

「はい、ずいぶんムリしましたけどね」

苦笑する彼は、スーツを着こなしている立派な社会人だ。

…あたしより、しっかりしてそう。

「そう…だったの。立派になったわね」

思わず胸が熱くなる。

目も熱くなって、涙が浮かんでくる。

生徒の成長は素直に嬉しい。

「はい。これなら、先生に一人前だって、認められると思って」

「えっ…?」

「忘れたんですか? オレがちゃんと一人前になったら、もう一度告白して良いって言ったじゃないですか?」

「にっ似たようなことは言ったけど…」

「オレはこの五年間、その言葉を支えに、生きてきたんですからね」

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