《MUMEI》
稲目健
「で、俺にどうして欲しいんだ?」


「流石察しが良いですね。」


部屋の中へ入り、
ドアを閉めたところで将貴は目の前にいる人物に声をかけた。


俺を1人で入らせたと言うことは、
奴しか事情を知っている人はいないと言うことだ。


そう確信を持って。


「私は明星高校校長、
稲目健(イナメ ケン)と申します。

どうぞそこのソファーにお掛けください。」


校長席から立ち上がり、
皺(シワ)の入った柔和な笑顔で将貴に挨拶をする。


茶のスーツに身を包み、
白髪混じりの髪をワックスで撫で付けおり、
まさしく何処にでも居そうな校長像だ。


将貴は素直に稲目の言葉を受け取ると、
稲目と向かい合う形でグレーのソファーへ腰掛けた。


と同時に伊達眼鏡をポケットにしまい、
前髪をかき上げて元の髪型にセットし直した。


さらに制服の第2ボタンまで外し、
ベルトを緩めて大幅に着崩す。


既にそこには優等生を装った、
偽の将貴の姿は無かった。

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