《MUMEI》

ユウゴは軽くため息をつくと、一つを織田に渡す。
「中で騒ぎが起きたら、それで俺たちを誘導してくれ」
「わかった」
織田は頷きながら、少し眉を動かした。
「どうした?」
「いや、根本的な問題に気づいたんだが」
「なんだよ」
「もし、人が集まらなかったらどうするんだ」
ユウゴは眉を寄せて織田を見た。
彼もまた眉間にわずかなしわを刻んでいる。
「人が来ない場合、おまえはすぐにばれてしまうのではないか?」
たしかにその通りだ。
今まで考えていなかったが、そもそもこの講演に人など集まるのだろうか。
もし集まった人数が数人程度では、行動を起こすことは難しい。
いや、まだ数人程度ならなんとかなるかもしれない。
しかし、誰も来なかった場合、実行は不可能だ。
ユウゴは困った表情で公民館に目を向ける。
まだ誰かが入って行った気配はない。
「……人数が少ない場合は、仕方ないから中には織田とケンイチが入れ。誰も来ない場合は、計画を変更する」
ユウゴの答えに織田は「そうか」と頷き、ケンイチはどうでもいいように笑みを浮かべていた。
だが、講演開始時間が近づくにつれて、ユウゴの心配は安心へと変わっていった。
バラバラと人が集まり始めたのだ。
さすがに大人数とはいかないが、それでも十人以上は入ったはずだ。
ユウゴは薄く笑みを浮かべて腰に挟んである銃を確認するように触れた。
そして「行くか」と公民館の入口へと歩きだした。

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