《MUMEI》

  
引っ越しの日、雛子も含め寮生の奴らが手伝いに来てくれた。

といっても、俺の荷物なんてほとんど無いんだけどな。

「龍侍、こっちでいいの?」
「あぁ…何だよコレ、お前が住むワケじゃねぇんだぞ」

俺の部屋には似つかわしく無い雛子の置いた変な顔のクマのぬいぐるみがふてぶてしく鎮座していた。

「置いといても…いいじゃん…ι」
「雛子泣かせんじゃねぇよ♪」
「…うるせぇ///」

俺をからかってきた奴を殴ると、雛子が怯えたような顔で俺の方を見ていた。

「…分かったよ」

雛子に背を向けてその泣き顔を見ないようにした。

…気持ちが押さえきれないからな。

「雛子も…ココに…」
「ダメだ」
「え、だって…」

それを聞いた雛子は驚いたような、それでいて寂しそうな顔で俺を見つめていた。



形ばかりの引っ越しも済んでアパートからの帰り道、今まで隣の部屋だった奴に俺の部屋に置いてきたものは施設の奴らにあげる事、俺んトコに来てもいいけどしょっちゅう来るんじゃねぇって事を伝えると、後ろからトボトボとついてきていた雛子の方を見た。

「ちょっと来い…」

暗い顔をした雛子を道の横に連れてくと、こっちを覗き込んでいた奴を手で”シッシッ”と追い払うと、そいつはニヤニヤ笑いながら先に帰ってくれた。

それを見届けると、俺は雛子に向き合った。

「りゅう…じ?」

雛子は丸くて黒い可愛い瞳で不思議そうにこっちを見上げ、ちょっと戸惑っているようだった。

「耳貸せ」
「えっ///」

オロオロしている雛子の顔に顔を近づけると、その短い髪のかかっていた耳にそっと耳打ちをする。

「お前に…ココに居ろなんて言ったらアイツらが何言うか分かんねぇだろ///」

俺がそう言うと、今までの暗い顔が一気に明るくなっちまった。

「あ…ぅ…うん、そうだね///」
「分かったか?」

俺の言いたいことを理解した雛子は俺のシャツの裾をギュッと掴むと、額を俺の胸に預けてきた。

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