《MUMEI》
痛む心
 しかし、いざ必要という時に限って爆発は起きない。
このままでは、間もなくデパートへついてしまう。

「警備隊の奴ら、このままデパートへ追い込んでまとめて殺すつもりだな」
「そうだね。建物に入ったらもう、逃げ場はないし」
「理由はわかんねえけどな」
「わたしたちも巻き添えだね」
沈んだ声でユキナは言った。

「冗談じゃねえ」
低く、ユウゴは唸る。
「俺は、死ぬわけにはいかない」
そう言うと、そっと銃を取り出した。
「ちょっとユウゴ。あんた、まさか」
「仕方ないだろ。それとも、おまえはこのまま死にたいのか?」
ユキナは俯いた。
「……誰も止まらないなら、止めるしかない」
二人は荒く息をしながら、見つめ合った。

 そして、ゆっくりとユウゴは後ろを振り返る。

もうユキナも止めようとはしない。

誰もユウゴの動きになど注意を払っていない。
ブツブツと小さく呟きながら、ひたすら走っているだけだ。

ユウゴはゴクリと唾を飲んだ。

 今までに直接人を撃って殺したのは、ただの一度だけだ。
それも狂った奴が相手だった。

しかし、今度は違う。

正気ではないが、罪のない、むしろ可哀相と言ってもいい人間が相手だ。

……正直、心が痛い。

「……ユウゴ、前」
呼ばれて前を向くと、いよいよデパートが迫っていた。
ユウゴは一度、大きく息を吐くと「いくぞ」と後ろ向きに銃を構えた。

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