《MUMEI》 空虚な毎日. ―――散々なあの飲みの日以来、 隆弘から、頻繁にメールや電話が来るようになった。 もちろん、土日・祝日以外だが。 決まって、夜11時過ぎ、 仕事から帰った後、簡単に食事を済ませて、独りでテレビをぼんやり眺めていると、携帯が鳴り響く。 隆弘はいつも乗り換え駅で電車を待つ間に、連絡をくれる。 『お疲れー!』 電話に出たら、それが第一声。 相変わらず、爽やかでのんびりした抑揚。 わたしが、「お疲れさまです…」と疲れた声で答えれば、『元気ないじゃん』と軽やかに笑う。 『今日は疲れたなぁ…一日走り回って、やっと今、帰り』 「忙しいんですね」 『まぁね。ヒマよりいいよな。そっちはどうだった?』 「別にいつもと変わらないですね。レポート添削して、発音矯正して」 『そっか、お疲れさま』 いつも、こんな会話。 「疲れた」、「忙しかった」、「何してた?」、「お疲れさま」…。 ただ繰り返される、意味のない言葉の羅列。それは退屈で、面白味のない、空虚なもの。 電話の向こう側で、電車がホームに滑り込んでくるけたたましい音が聞こえてくる。それも、いつものこと。 そして、その音を合図として、 『じゃあ、また電話するよ』 隆弘は、早々と電話を切ってしまうのだった。 正味5分程度の、短い会話。 いや、会話というにはあまりにも内容が薄すぎる。 黙り込んだ携帯をぼうっと眺めながら、わたしはいつも考える。 ―――隆弘は、何を考えているのだろう。 ちっとも、彼が考えていることが判らない。 日課のように、いつも決まった時間に連絡してくる隆弘。 帰り際、手持ち無沙汰になった5分という短い時間に、単なるヒマ潰しか、或いは、独りぼっちで可哀想なわたしのことを憐れんで、電話をしてきているような気がしてならなかった。 そして、一番判らないのは、 そんなつまらない筈の隆弘の電話を、 携帯を目の前に置き、今か今かと独りで待ち侘びている自分がいることだった。 . 前へ |次へ |
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