《MUMEI》

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わたしは顔をあげる。

つけっ放しだったテレビの画面には、今、話題のドラマの映像が流れていた。主役の女優が、瞳に涙を一杯湛えて、相手役の俳優に自分の思いの丈を打ち明けている。

同じようなシュチュエーションでも、


泣いても変わらず美しい顔立ちの彼女と、

この前の、わたしの悲惨な泣き顔とでは、

まったく別物のように思えた。



―――この、作り物のドラマのように、

あんな風にきれいに泣けることが出来たなら、

隆弘も、もっと違った反応をしてくれたのかもしれないのに。


突然のキスでうやむやにすることなく、

わたしの精一杯の言葉を真正面から受け止めてくれたのかもしれないのに。



そんな、いくら考えても仕方のないことに想いを馳せながら、


相変わらず、独りぼっちのまま、



夜は、更けていく…。



******



亜美から電話があったのは、わたしが学校のカフェテラスで昼休憩を取っていた時だった。

『もしもし?わたし!』

亜美は、いつものような快活な声で話しかけてくる。この前、中絶手術をしたことなど、まるですっかり無かったかのように。

わたしが疲れた声で、「久しぶり」と呟くと、彼女は楽しそうに笑った。

『なぁに?その死にそうな声!もっと嬉しそうにしなさいよ』

ケラケラと笑い転げる亜美の声を聞きながら、わたしは力なく、「ホントだよ…」と言った。

「…わたし、本当にダメかもしれない」

低い、低い声で、呟いた。

最近、本当に心が、死んでしまいそうだった。疲れていた。

一日中、隆弘のことを考えて、考えて、考え過ぎて、頭の回路がこんがらがってしまって、どうしたらいいのか、途方に暮れていた。


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