《MUMEI》 . マシンガンのように、止まることのない隆弘の愚痴を一通り聞き流していると、不意に彼は口をつぐんだ。突然、沈黙が訪れる。 不思議に思って、「もしもし?」と呼び掛けると、 隆弘は、淡く笑った。 『…何か、俺、いつも愚痴ばっかだよね』 『ごめんね…』と、頼りなく、囁く。 弱気な声に、わたしはフッと笑い、「…気にしないで」と優しく答えた。 「男の人は、色々大変ですもんね。背負わなきゃならないもの、いっぱいあるでしょ?」 わたしの言葉に、隆弘は黙って笑った。寂しそうな、乾いた笑い声だった。 しばらくして、 隆弘が、『今度の…』とぼんやり呟いた。 『金曜、ヒマ?ご飯、食べに行かない?』 わたしは瞬いた。今度の金曜には、同窓会を控えていた。 「…その日はちょっと、用事があって」 ぼそぼそと答えると、隆弘は少しトーンを落として、『その前の日は?』とすかさず切り返してきた。 その早さに驚きつつ、わたしは頷いた。 「木曜なら空いてます。仕事が終わったら、ですけど」 わたしの返事に、隆弘は『決まり!』と、声を明るくさせた。 『仕事、何時くらいになりそう?』 「多分、8時には終わると思います」 『じゃあ、この前と同じ所で8時半に』 「…わかりました」 わたしが答えた時、ちょうど例の電車の音が、電話越しに聞こえてきた。 電話の終了を告げる、いつものサイン。 「…それじゃ、また」 わたしがそう言って電話を切ろうとすると、 『待って』 突然、隆弘が呼び止めた。そんなことは、初めてだった。 わたしが、「なに?」と尋ねると、隆弘は戸惑ったように唸り、 『皐月さん、俺さ…』 やっと言葉を紡いだかと思ったら、それきり口を閉ざしてしまう。 わたしは眉をひそめて、「もしもし?」と、強く呼び掛ける。 「どうしたの?」 優しく尋ねてみたのだが、隆弘は声を改めて、『何でもない!』と朗らかに答えた。 『それじゃ、木曜空けといてね!』 そうして早々と電話を切られてしまった。 ツーツー…と無機質な機械音を繰り返す携帯を見つめながら、わたしは首を傾げるほか無かった。 ****** 前へ |次へ |
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