《MUMEI》
変化
自分の気持ちに気づいても、僕はその気持を口に出すことはしなかった。


お嬢様と庶民の恋など、叶うはずがないのだ。身分の違いというのが自由な恋愛を邪魔する。

結局は、顔も知らないものと結婚させられるのが僕の人生というものだ。それは、どうやっても変えられない。



だから、僕は少しでも自由な時間がある今のうちに悠一との時間を楽しむことにした。



だって、今はすごく毎日が楽しいから。
楽しくない事を考えるなんて、そんな無駄なことはしたくない。



この間、僕が部屋で読書をしていると、お茶を運んできた廉にこう言われた。

「最近、何かいいことがあったのですか?」と。

何のことか分からずきょとんとしていると、廉は柔らかく微笑みながら言葉を続けた。



「最近、表情が柔らかくなったように感じるのです。私やメイドにもよく話しかけてくれるようになりましたしね」

「そうかしら?私、自覚がないわ」

「私は貴女の元気がないことをずっと心配しておりましたが、今の様子なら安心です」

「そう。ありがとう」




悠一との出会いは、どうやら僕を大きく変えたようだ。

自覚はなかったが、言われてみれば、確かに屋敷内の者と話すことが増えたように思える。


いつからか、僕の願い事は”この世界を変えてください”ではなく、”悠一とずっと一緒に居させてください”に変わっていた…。

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